法律を学んだことのある人はご存じだと思いますが、法の適用とは、三段論法になっています。第一に、大前提としての法解釈があります。例えば、「刑法199条における殺人の実行行為とは、人の死の結果を生じさせる現実的危険性のある行為である」というものです。次に、小前提として「Aは、銃弾を発射可能な改造拳銃で、Bを撃った」というものがあります。そして結論として来るのが、「Aの行為は、殺人の実行行為に該当する」というものです。
法の適用とはあくまでこの三段論法に則って行われるのですが、実は、法学部や法科大学院で学ぶ法律学や司法試験で出題される問題は、殆ど全てが、この大前提に当たる「法解釈」についてのものに過ぎません。
ですが、考えてみると、最初の「殺人の実行行為とは、人の死の結果を生じさせる現実的危険性のある行為である」との法解釈は、法律を学んだことの無い人であっても、おおおその意味合いはわかるのではないでしょうか?要するに、「人が死んでしまう可能性があるくらいに危険な行為」が殺人の行為(刑法学においては「実行行為」と言います)なのです。
ここからわかるように、実は法適用の三段論法における大前提である「法律の解釈」は、殆どの場合、普通の人でも容易に理解しうるものなのです。そもそも法律を読んだ人が意味を理解できないと、法律の意味が無いですよね(そう言ってしまうと弁護士の仕事って何だ?と言われそうですが・・・。私見では、ほとんどの方は法律の意味を読んでわかることはできても、自分の言いたいことを法的に言うことができません。そこを弁護士がお手伝いするのです)。
では次の「Aは、銃弾を発射可能な改造拳銃で、Bを撃った」という事実はどうしたらわかるでしょうか。もしAが誰もいない荒野でBを撃った場合、それを直接見た人はいません。ほんとうの真実は、神様しかわからないでしょう。
しかし様々な証拠を集めた結果、つまり改造拳銃に残された指紋や、Aの死体の中にあった弾丸、Bが殺された前日にAとBがひどく言い争っていた事実等々を加味して、Aを殺したのはほぼBに間違いない、と考えることが出来たとします。この、証拠から事実を導き出すことを、事実認定と言うのです。この事実認定のプロセスは、非常に論理的に行われるのです。
この本はその刑事事実認定の入門書です。来年から裁判員裁判が始まりますが、裁判員裁判にて最も期待されているのが、一般の市民の目線に立った、事実認定という作業です。その作業の中身を知っておくことは、もし自分が裁判員になることが無かったとしても、有用であることは間違いないと思います。
受験生だけでなく、刑事裁判に少しでも興味を持たれた方、法律家の思考経路を覗いてみたい方、仕事で論理的思考(ロジカル・シンキング)を求められている方など、色々な人にお薦めの本です。星五つ。
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